ろ過の新しい価値を創造する企業として
グローバル市場で存在感を示してまいります


代表取締役 社長執行役員 山崎 敦彦

「ろ過」の技術で社会の発展に貢献

当社は1956年の創業当初から「仕濾過事」の社是のもと、一貫して「ろ過」にこだわり、フィルタビジネスに邁進してきました。この「ろかじにつかふる」という言葉には、「フィルタビジネスを通じて社会に貢献する」という強い決意が込められています。その精神はいまなおDNAとして受け継がれ、ヤマシンフィルタとしてあるべき姿を示す重要な指針となっています。私自身も、長い年月をかけて磨いてきたろ過の技術を基盤に、社会の発展に寄与し、人々の快適な暮らしを支えていくことこそ、当社の存在意義であると捉えています。

「仕濾過事」の理念の下、建設機械用油圧フィルタ事業は、「環境」「空気」「健康」の3つのテーマを軸に社会に貢献しうる事業領域を拡大しています。2019年にはエアフィルタ専門の株式会社アクシーを子会社化し、ビル空調用だけでなく、医療機器や国内外の鉄道車両にもフィルタ活用の場を広げました。これからは新興国を中心に深刻化する大気汚染問題の緩和にも貢献できると考えています。人は生活の8割を屋内で過ごすと言われており、室内の空気の質は健康に直結します。当社の強みである「より大量に、より低い抵抗で捕捉できる」フィルタ技術をさらに進化させ、世界中の人の健康と快適さを守ってまいります。

 

正しいビジネスは、どうあるべきか

社会に役立つ製品を作ることと同時に、企業に求められる社会的責任を果たさなければなりません。製造者には原料調達から廃棄まで環境への影響に対する配慮が求められていますが、当社では特に使用後の廃棄に着目し、廃棄物削減に貢献できる小型化製品やロングライフ製品を開発しています。しかし製品寿命の延長で廃棄量とCO2排出量の削減が可能になる一方、製品の長寿命化は売上減少というジレンマを伴います。実際にロングライフ製品の開発段階では、収支バランスへの懸念もあがりました。しかしながら、当社は世の中に真に必要なものを提供するという使命があり、利益か環境かの選択においては環境への影響を最小限にするべきと、進むべき道は明確でした。
結果として、ロングライフ製品を使用することによるユーザーのメンテナンス負担軽減が、当社製品の選択につながり売上に好影響をもたらしました。短期的な利益追求ではなく、長期的視野に基づく正しい決断があってこそ企業は利益を得られた好事例です。
当社はこうした環境や社会の利益を優先しながら、自社の利益を両立させるESG経営の精神を持って、2022年にYSS(Yamashin Sustainable Solutions)委員会を設置し、委員会を中心にサステナビリティの取り組みを推進してESG経営を進めています。
特に環境問題への対応はマテリアリティとして設定し、これまで以上に歩調を強めています。YSS委員会設置からほどなくしてTCFD宣言に賛同し、情報開示も徹底してきました。その結果、同年に「D」だったCDPのスコアは、翌年には「B」に格上げされました。また、CO2排出量削減の中長期目標を策定する予定であり、SBTの認定取得を目指すコミットメントを表明しました。この成果をもとに取り組みをさらに進めてまいります。

 

供給を途絶えさせない強靱なサプライチェーン

当社のもうひとつの社会的責任は、お客様に製品を途絶えることなく供給することです。国内の佐賀工場に加えて、フィリピン(セブ)、ベトナムの3工場があり、製品は国内のみならず北米市場や欧州、アジア地域で販売するグローバルな事業展開を行っています。言わずもがな世界の動向に大きな影響を受けるため、強靱なサプライチェーンの構築に絶えず取り組んでいます。
ベトナム工場設立の際には、BCPとフレキシビリティを重視し、コロナ禍の物流混乱時も現地サプライヤーとの連携を活かし、供給を途絶えさせませんでした。セブ工場は円高対策として設立した経緯もあり、コスト競争力に優れています。このように物流リスクや為替変動にも対応できるグローバルなサプライチェーンの構築を進め、建設機械用フィルタに強いグローバルニッチトップ企業として確固たる地位を築いています。しかし、私たちの挑戦はここで止まりません。
このたび発表した中期経営計画では、「新たな価値創造の取り組み」「資本コストを意識した経営の強化」「ESG経営の推進」の3つを中計戦略テーマとし、グローバルトップ企業として飛躍的な成長をし、次のグローバルスタンダードをつくる唯一無二の総合フィルタメーカーへと進化させます。
創業以来、一貫して「フィルタビジネス」を通じて社会に貢献する」ことにこだわって邁進してきました。ステークホルダーの皆様からのESG経営への期待の高まりに応えるとともに、ESG評価機関にも高く評価される企業としても一層の存在感を示してまいります。

 

 

 

2050年の「仕濾過事ろかじにつかふる」に想いを馳せながら、
社会課題解決に資する事業を推進いたします


取締役 副社⻑執⾏役員 ⼭崎 裕明

社会が大きく変化しても変わらない創業の精神

当社グループは、創業以来、お客様に付加価値の高い製品を提供するための研究開発に注力してきました。多くの同業他社が「ろ材」を外部調達しているなか自社開発にこだわっているのも、より高い付加価値を提供したいという想いからです。そして2022年からは分散していた研究開発拠点を「横須賀イノベーションセンタ」に集約しました。建設機械を使った実機試験ができるフィールドを備えた希有な開発拠点でもあり、お客様と実機試験を行いながら、直接ご要望を聞く場としても活用しています。
拠点の集約で研究開発の効率化とニーズの吸い上げという目的は果たせものの、今後も大きく変わりゆく社会にあって、当社のDNAである仕濾過事「フィルタビジネスを通じて社会に貢献する」という姿勢をどう具現化していくかが課題です。当社の研究開発スタッフとは、カーボンニュートラルまでの中間地点である2030年、ゴールである2050年に、どのような社会になっているかに想いを馳せ、その時、当社のあるべき姿について議論を重ねています。
今後は製品や技術の新規性に加えて、環境や人権、経済などさまざまな側面に目を向けたサステナブルな開発がさらに強く求められていくでしょう。利益の追求だけでなく、理想の社会を高い解像度で思い描きながら、時代の要請に応えてまいります。

 

従業員の意欲を引き出しバリューを生み出す経営

当社グループは、2024年11月に発表した中期経営計画でウェルビーイング経営を掲げています。社員一人ひとりの身体的、精神的、社会的な満足度を高めることで、仕事への意欲やエンゲージメントを向上させる経営を行い時代の要請に応えるとともに、魅力ある会社にする取り組みを進めています。
コロナ禍を契機に働きやすい職場づくりの一環として、時差出勤やテレワークを導入し、就業時間を7時半から16時半と、他社と比べて早い時間帯に変更しました。導入当初は賛否があったものの、いざ開始すると従業員から「家族との時間が増えた」「仕事終わりに趣味に費やす時間ができた」など、就業時間変更による新しいライフサイクルに好意的な意見が多数寄せられました。結果的に当社独自の挑戦が、従業員エンゲージメントを高めるいい機会につながりました。
そしてエンゲージメント向上には公正な人事評価も不可欠であり、私は海外出張の都度、現地の社員と対話しています。そうすると日本にいては聞けなかった、社員の本音や仕事ぶりがわかります。このとき痛感するのは、評価者が現場感覚を持ち正当な評価ができなければ、本人が納得できる公正な評価にはならないということです。
特に社員の離職率を注視しており、離職は社員の意思表示であり会社にとっては貴重な人材の損失となります。従業員の心身の健康と幸福感、成果に対する公正な評価、それに見合った報酬。この3つが揃ってこそウェルビーイング経営であり、有能な人材が長く当社で活躍してくれる魅力ある会社になることだと思います。

 

サプライチェーンで試される会社の品格

当社グループの事業は多くのサプライヤーとのパートナーシップによって、フレキシブルでレジリエントなサプライチェーンを構築しています。コロナ禍という未曾有の経験からも、私たちは予期せぬことが起きる時代に生きていることを認識し、問題が生じたときの自己修復レベルを高める必要があります。もし人権や環境に代表されるサステナビリティに問題が生じたときに迅速に解決するためにも、取り組みをサプライヤーと一体となり推進していくべきものと考えています。
その布石として、人権や労働安全衛生などの項目を含んだ「サステナブル調達に関する方針」の策定と協力要請に向けた取り組みを進めています。サステナビリティを推進している多くの企業と足並みを揃える重要な取り組みである一方、行動基準の浸透や実態との乖離を埋めてサプライチェーン上のサステナビリティリスクを低減させることが今後の課題です。
これまでも国内外問わずサプライヤーには、社長や私自身が現地に赴き、実態把握に努めてきました。明らかに劣悪な労働環境や人権侵害がないことは、自分の眼で確認しているものの、書面での調査や現地視察だけで実態を把握しきれていると言えるのでしょうか。サプライヤー間のコスト競争がある以上、「私たちが見えていないところで、誰かの犠牲の上にビジネスが成り立っていないか」という危機感があり、真摯に対応しなければならないと考えています。
サステナビリティに関わる課題は、一朝一夕に解決できるものではなくコストもかかります。コストをかけて努力したとして、それがいつ実を結びトップラインに表れるのかも不確実です。しかし、目先の利益を優先させて、サステナビリティを後回しにすることは、会社の品格が問われかねない行為だと思います。
特にヤマシンフィルタのDNAは、仕濾過事という理念の通り、フィルタビジネスを通じて社会に貢献するという精神そのものです。この信念を貫くことが会社の品格であり、長期的な企業価値の向上と社会への貢献を両立させる唯一の道筋だと確信しています。