「仕濾過事」の精神を
ぶれることなく体現し、
サステナブルな社会の実現を目指します
代表取締役 社長執行役員
山崎 敦彦
新ろ材が切り拓く市場と環境負荷軽減
1956年の創業以来、当社は「仕濾過事」の社是が意味する「フィルタビジネスを通じて社会に貢献する」に一貫してこだわり、事業活動に邁進してきました。研究開発型企業として培ってきた業界トップ水準の技術は国内外で高く評価され、主力製品の建設機械(建機)用フィルタやエアフィルタは、世界各所で人々の快適な暮らしを支えています。
成果は数字にも表れ、2024年度は創業以来最高額の売上・利益を記録しました。なかでも交換用フィルタとして提供している補給品は、建機メーカーのアフターマーケット戦略とも合致して需要を伸ばしています。この堅調を支えているのが、使用後の廃棄に着目して開発したロングライフフィルタです。2024年度は、当社が次世代ろ材として生み出した「YAMASHIN Nano Filter™」を使用した新モデルも製品化しました。製品寿命が従来品の3倍という大幅なロングライフ化を実現した新モデルは、廃棄量とCO2排出量の削減に寄与する一方で、開発段階では売上減少が懸念されました。利潤を追求するのは企業として当然ですが、私たちは世の中のためになる製品を提供するという強い使命感のもとで開発に臨みました。結果として、環境負荷を抑え、メンテナンス負担の軽減にも効果的な当製品はユーザーに選ばれ、建機用フィルタの主力となっています。まさに「仕濾過事」の精神を貫いたからこその成功譚です。70年間にわたり受け継いできたDNAを拠り所に、引き続き製品開発に尽力していきます。
ESG経営を推進し、さらなる成長へ
当社は2024年11月、持続的な事業成長と企業価値の向上を図るための羅針盤として、2025年度から3年間の中期経営計画を初めて公表しました。中期経営計画の中では、私たちは基本戦略のひとつとして「ESG経営の推進」を掲げています。事業活動を通じた社会貢献は当社の責務であり、ロングライフ製品がそうだったように、サステナビリティの取り組みは会社成長の原動力にもなり得ます。
取り組みを加速させるため、非財務のKPIにはESG投資指数であるFTSE*1スコア、CDP*2気候変動スコアの数値目標を盛り込みました。自分たちで過大評価して成長が滞るのを避けるうえでも、会社の判断指標となる数字を明確に示し、達成に向けて前進することには意義があります。幸いにも、CDPについては目標スコア「A」を2025年2月に取得しました。これは、環境配慮製品の開発に加え、毎月YSS委員会を開催して戦略を練り、再生可能エネルギーの導入など改善活動を重ねてきた結果です。「Aリスト企業」であり続けられるよう、改善の余地を残す海外工場を中心にさらなるCO2排出量削減に努めていきます。「2.7」だったFTSEスコアを2025年7月に「3.8」と大きく伸ばし、目標とする「4.0」の早期実現を目指します。半年ごとに実施しているサプライヤーを招いたパートナーズミーティングも活用し、サプライチェーン全体でESGを強化し、積極的に進捗状況を開示していきます。また、ESG経営推進の一環として「社会課題解決に資する高付加価値製品の拡大」も掲げています。製品のロングライフ化もそのひとつであり、超高密度の繊維を使用してろ過効率を徹底的に高めた「YAMASHIN Nano Filter™」で、多様な分野への応用に挑戦しています。先ごろ発表したアパレル展開はその代表例です。繊維を伸縮自在の布状にすることで薄さ・軽さ・暖かさを同時に実現し、スポーツウェアや防寒着に適用できます。また、電気自動車の車両内で発生する電磁波を効果的に遮断する電磁波シールドも実証段階を迎えています。その他、心拍数などが計測できる生体センサーや、医療・介護、スポーツ分野などの領域での活用にも期待が寄せられています。開発は地味な作業の連続ですが、これまで接点がなかった企業と協働したり、日常の中で自社製品が社会に役立っていることを実感できたりなど、既存のフィルタの枠を超え、この先にワクワクするような未来が待っています。これは社員にとっても大きなやりがいになるでしょう。12月上旬には新たに「YAMASHIN FILTER VISION 2030」を掲げ、グループ一丸となって高付加価値製品の創出に取り組み、企業価値のさらなる向上を図っていきます。
*1 FTSE:Financial Times Stock Exchangeの略。ロンドン証券取引所と英国の経済紙フィナンシャル・タイムズ社が共同で提供する株価指数のこと
*2 CDP:企業や自治体に対し気候変動や温室効果ガス排出量などの環境情報の開示を促し、その情報をもとに評価・格付けを行っている英国発の国際的な環境非営利団体(NGO)
透明性の高いガバナンスに向けて
一連の取り組みの実効性を高めていくためには、社内基盤のさらなる強化が不可欠と考えています。特にファミリービジネスにおけるガバナンスのあり方は、ステークホルダーの皆様の関心事であると認識しています。創業家としては、根幹となる経営理念は守り続け、経営は世の中の動きに合わせて柔軟に対応することを基本姿勢としています。ファミリービジネスには課題も指摘されますが、当社が「仕濾過事」の精神をつないできたように、会社の理念を一貫して継承し続けられるという強みがあります。経営者が変わるたびに理念が変わるようでは、持続的な成長は望めません。揺るぎない経営理念を基盤にガバナンスを効かせていくために、当社は情報開示を積極的に進めています。初めて中期経営計画を公表したのもその一環です。また、取締役会の多様性確保にも注力し、2025年6月に高度な専門性を備えた女性2名を新たに社外取締役に選任しました。その成果はさっそく表れ、経営会議での議論が一段と活発化し、意思決定の質が向上しています。
当社は今後もアイデンティティを守りながらガバナンスを強化し、透明性を徹底することでステークホルダーの皆様への説得力を高め、信頼に応えてまいります。
Well-being経営を強化し、
従業員の挑戦を原動力に
新たな価値を創造していきます
取締役 副社⻑執⾏役員
⼭崎 裕明
新たな価値を創造し続けるために
当社は2024年11月に中期経営計画を発表しました。基本戦略として「新たな価値創造の取り組み」「資本コストを意識した経営の強化」「ESG経営の推進」を掲げており、なかでも私が特に重視すべきことは「新たな価値創造の取り組み」だと考えています。
中期経営計画の策定にあたって、当社が成長し続けられた理由を改めて振り返ると、そこには創業以来、油圧フィルタをはじめとする独自の製品で市場を切り拓き、顧客の期待を超える提案をし続けた先人たちの姿がありました。単なる製品提供にとどまらず、お客様の立場に立って、求められるニーズをくみ取り、最適な解決策をともに考えてきたからこそ、今のヤマシンフィルタがあります。
このような姿勢は今も受け継がれ、当社の強みとなっています。この強みを活かし、新たな価値を創造し続けることこそ、私がコミットすべき役割と自覚しています。まずは成長の要である建機用油圧フィルタ領域のシェア拡大を進め、グローバルトップ企業として飛躍的成長を目指していきたいと考えています。
Well-being経営のアプローチ
「新たな価値を創造し続ける」ことの最大の課題は人材です。当社は今さまざまな挑戦の最中ですが、それを牽引する人材や要所を担う人材が圧倒的に不足していると痛感しており、中期経営計画では「Well-being経営の強化」を掲げました。
企業にとって最大の資産であり競争力の源泉は、優れたビジネスモデルや製品・技術ではなく、それを生み出す人材の力です。すでに日本は少子高齢化の社会に移行するなど、大きな転換期を迎えています。そのため、これまでの経営手法の踏襲では、時代に適合することはできません。だからこそ、Well-beingの視点が必要との思いに至りました。一般的にWell-beingは福利厚生の充実と結び付けられますが、私は教科書的なWell-beingの取り組みをするつもりはありません。従業員の幸せと健康を重視し、企業価値向上を目指す上で「ヤマシンフィルタらしいWell-beingは何か?」を考えるヒントは、やはり当社の歴史にありました。会社の価値創造に従業員が主体的に関わり、その挑戦を後押しする会社の支援こそが、当社におけるWell-beingなのです。
当社が油圧用フィルタでシェアを獲得する以前は、汎用的なフィルタが使われていましたが、実は、汎用製品では対応できない細かなニーズが存在していました。その細かなニーズを自社製のろ材や工夫を通じて具現化したことが、当社の飛躍の原点でした。この挑戦は、従来の営業プロセスや開発プロセスでは乗り越えることはできず、原動力となったのは圧倒的な「当事者意識」と、それにより突き動かされる「越境的な行動」でした。どうしたらニーズに応えられるかと考え、営業が設計の気持ちを理解し、設計が顧客視点で動くなど、さまざまな担当者が部門や立場を乗り越えて全方位でお客様に向き合った結果、唯一無二のフィルタメーカへと成長しました。今、ヤマシンフィルタが必要としている人材は、先人たちのように縦横無尽に越境活動ができる人材です。この「縦横無尽に越境活動ができる人材」を育成する「Well-being経営の強化」を進めるため、分科会を立ち上げ、2025年度中に取り組みをスタートできるように準備をしています。
今の時代に合わないのではないか、従業員の期待と違うのではないかなど、分科会の中でも多くの意見がありましたが、当社の価値創造プロセスに一般的なWell-being施策を当てはめるだけでは戦略や競争力との不整合が生まれ、矮小化された解釈ではせっかくの取り組みが機能せず組織を脆弱にするリスクがあります。効果的な取り組みとなるよう、強みやユニークさを維持しつつ、従業員の幸せと企業価値向上の両方をかなえるヤマシンフィルタらしいWell-beingを推進していきます。
サプライヤーと創る持続可能な未来
当社の事業活動は多くのサプライヤーによって成り立っており、サプライチェーン上のリスク低減は常に注力すべき重点分野です。2024年度からYSS委員会が中心となり、サステナブル調達に関する方針と調達ガイドラインの策定について検討するなど、取り組みを進めています。私は海外サプライヤーの現地状況確認を、半期ごとに継続して行っています。現場では労働環境を重点的に確認し、整備されていない場合は、サステナビリティの観点だけではなく、品質面も指導しています。一部のサプライヤーの状況はCSR調達アンケートを実施して確認していますが、サプライヤーを訪問するたびアンケートだけでは情報の密度もクオリティも足りないと実感しています。直接話すことで、考え方や不満点、改善ポイントを把握でき、こうしたコミュニケーションが品質向上につながると感じています。日本の労働人口が減る中で良い製品を作り続けるには、私はメイド・イン・ジャパンではなく、メイド・バイ・ジャパニーズカンパニーになると考えています。日本のものづくりを海外で実現するには、サプライヤーの協力が不可欠です。共に考え、良い製品を生み出せる付加価値のあるコミュニケーションを推進していきます。
当社は今、さらなる成長を目指し、「領域を越える」挑戦をしています。人材が自分の領域を越えて活動することで、新たな事業領域を切り拓いていくことができます。確かな成果を見せられるよう、積極的に取り組んでいきますので、これからのヤマシンフィルタにどうぞご期待ください。